嘘吐きな恋人
「無理に話せとは言わねぇけど、おまえ溜め込むから。だから姉ちゃんも心配したんだと思うぞ」
「別に溜め込んでないし、ほんとそんな言うような話でもないんだって」
ダイニングテーブルに頬杖をついたまま視線を落とす。
と言うか、お兄ちゃんに言える類の話でもないしなぁ。
「だからそんなんでわざわざ戻ってこなくて良いのに、ホント」
「しょうがねぇだろ、姉ちゃん、お前は絶対あたしには何も言わないって、あたしのことまだ許してないんだもんってヒステリックに電話してくんだから。夜の2時とか寝てたっつうの」
若干面倒くさそうに零したお兄ちゃんに、それは災難だよねと心の底からあたしは同情した。あの人のヒステリーほど鬱陶しいものって、ない。
そんなあたしの沈黙をどうとったのか、「まだ整理できてねぇの」と窺うようにお兄ちゃんが口を開いた。
「別に、って言うか、それとこれとは関係ないし」
「まぁなんつうか……、千沙が納得いかなくてしょうがねぇとは思うけどさ」
じゃあお兄ちゃんは納得いってんの。
口先まで出かかった文句を呑みこんで、視線を落とす。
そんな子どもみたいなことは言いたくなかった。