嘘吐きな恋人
ダメダメだったあたしの話を真正面から聞いて抱き留めてくれたのは、しろだ。
あたしを好きだと、自分は絶対浮気なんてしないとそう言ったのは1年前の、しろだ。

あのときは、それが全部みたいだった。

それに縋って、幸せで、馬鹿みたいに浮かれていた。

そんなの――浮気しない人間なんていないのだと、分かっていたはずなのに、あまりにも真剣な目でしろが言ったから、ついうっかり信じてしまって、それがもう馬鹿だとしか言いようがないんだけど。


「いい奴、ね」


知らずこぼれた台詞に、お兄ちゃんが意外そうに眉を上げた。


「元気ない原因って、もしかしてそれだった? 城井くんと喧嘩でもしたとか」

「そんなじゃ、ないけど」


喧嘩じゃ、ない。というかきっと、そういう双方向性の次元じゃない。

机の上に顔を押し付ける。頬が冷たくて気持ちよかった。かすかな溜息の後、柔らかいお兄ちゃんの声が落ちてきた。


「今俺、朝一の講義とかないからさ、しばらくこっから通おうかと思って」

「……帰っていいのに。っていうか帰れば」

「かわいくねぇこと言ってねぇで、素直に喜んどけっつうの。とっとと仲直りしろよ、こじらすと面倒じゃん、なんでも」


うんと返事だけは返したまま、しろのことを思った。

俺は千沙が一番好きだ、と。大事なのだと。

そう囁いて落とされる言葉一つ一つに、優しく触れてくる熱に、好きだと思った。

幸せだと信じていた。
あたしはしろだけで、しろもあたしだけだと馬鹿みたいにそう盲信していた。
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