嘘吐きな恋人
だから、初めてしろに浮気されていたと分かった時は、ひどくショックだったけれど。

違う、俺してないよ、千沙の勘違いじゃないの? 言い募るしろを思いっきり殴った。

本当に違うんだってと、そう言いながらそれでも何もやり返してこないしろに、なんだかすとんと力が抜けた。


悔しかったし悲しかったし、ムカついた。もう頭の中がぐしゃぐしゃで。最悪、あんたなんか嫌い、とそう言ってしまいたかったのに言えなくて。

縋るみたいにしろの襟首を掴んで、嚙みつくようにキスをした。

安堵したようにしろは、あたしを抱きしめる。

俺が好きなのは、特別なのは、千沙だけなんだからねと囁くそれは、もう苦しいだけで、空しいだけで。


あのときみたいな、幸せな感覚が訪れればいい、そんな夢想はあっという間に消え去って。


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