嘘吐きな恋人
「千沙」
いつドアの前に移動していたのか、開けた瞬間、しろの顔が目の前にあった。
会えて嬉しい、でもごめんね。
そんな感情をものすごくうまく乗せた表情をつくれるのは、もはやしろの特技だと思う。
「ごめんね、千沙。おはよう。……まだ、怒ってる?」
台詞も想像通りだったけど。
溜息ひとつで「怒ってないよ、もう」と答えてしまうあたしも、どうしようもなくいつも通りだった。
いつも、通り。
なかったふりして元通り、何度も繰り返してきた、それ。
しろを軽く押しのけるようにして歩き出したあたしの隣に、自然にしろは並んでくる。
そしてそれもごく当たり前のように手を絡めてくるから、たまらなくなる。
やめてよ、と解こうとするとしろは不思議そうな顔をした。
「誰が見てるか、分かんないし」
「そんなの今更だと思うんだけど。……いや?」
「だから、……」
「3日ぶりだし千沙に触りたい、一緒にいたい」
その原因はなんだったのよと問い質す代わりに、癖になりそうなため息を吐く。
どうせあたしに会わなくたって、好きに遊んでたでしょ、あんたは。