嘘吐きな恋人
「痕」


立ち上がりざまに首もとに手を伸ばす。
触れた指先から、消えていってしまいそうだった。


「見えてる」

「千……」

「別に、いいけど」


そのまましろの横をすり抜けて、もうこんな場所なんてでていきたかったのに。
しろがあたしの手をつかんだ。


あたしは、しろと一緒にここにいるのが確かに好きだった。

誰にも邪魔されないと思っていたけど。

ここももはや、しろにとってはあたしだけの場所じゃなくなっていたんだろう。
そうじゃなかったら、三浦さんがここに来るはずがない。


だからもういいと、本当に思った。

どうせしろが浮気してようが、していまいが。
あたしを置いていこうが、どうしようが。
だってそれは、しろにとって浮気じゃないんだ。

なのにあたしが特別なんだと今まで勘違いして、あたしが勝手に苦しくなっていただけなのかもしれない。

もしかしたら前みたいに、なんて馬鹿みたいだ。


あのときもしろは、今と変わらなかったのかもしれない。ただそれにあたしが気付いていなかっただけで。

あたしが美化していただけで。

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