嘘吐きな恋人


あれ以来、しろが近づいてくる回数は激減した。

それでもふと思い出したように傍に寄ってきて「千沙」と変わらないように感じる甘い声で、あたしを呼ぶ。

そのたびに苦しいように思うのが、もう嫌で、どうでもよくなれ、嫌いになれとあたしは今も念じ続けている。




「ちょっと千沙、あんまぼーっとしてて、怪我しないでよ」


急に背後から振ってきた声で、落ちていた思考がふっと引き上げられた。

「ごめん」としゃがみ込んだまま振り向こうとした瞬間、膝が当たって釘が入っていた箱に当たった。

そうなると当然、中身はばらまかれるわけで。

派手に床に散らばったそれに、声をかけてきた未帆が「あーぁ」とほら見たことかと言わんばかりの声を出す。
けれどあたしとして、半分は未帆のせいじゃないのと言いたい。

面倒くさいから言わないけど。

< 43 / 87 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop