嘘吐きな恋人
あれ以来、しろが近づいてくる回数は激減した。
それでもふと思い出したように傍に寄ってきて「千沙」と変わらないように感じる甘い声で、あたしを呼ぶ。
そのたびに苦しいように思うのが、もう嫌で、どうでもよくなれ、嫌いになれとあたしは今も念じ続けている。
「ちょっと千沙、あんまぼーっとしてて、怪我しないでよ」
急に背後から振ってきた声で、落ちていた思考がふっと引き上げられた。
「ごめん」としゃがみ込んだまま振り向こうとした瞬間、膝が当たって釘が入っていた箱に当たった。
そうなると当然、中身はばらまかれるわけで。
派手に床に散らばったそれに、声をかけてきた未帆が「あーぁ」とほら見たことかと言わんばかりの声を出す。
けれどあたしとして、半分は未帆のせいじゃないのと言いたい。
面倒くさいから言わないけど。