嘘吐きな恋人
釘箱に零れていたのを戻し終えた木原が、見てる方が怖いとあたしの手からトンカチを奪っていった。

そしてあたしなんかよりよっぽど手早く作業を仕上げていくのをなんとなく見守ってみる。


開け放たれた窓から「真面目にやんなさいよ」と件の連中を注意している未帆の声が聞こえてきた。

7月に入ってから、夏休み明けに行われる文化祭の準備に6限目が宛がわれる日が増えてきた。
祭りの縁日をイメージしたらしいうちのクラスは、射的やら輪投げ台やら作るものが多い。

机を教室の後方に押しやってあけられたスペースで、今も何グループかに分かれて着々と仕上げられ始めている。


「千沙さ」


器用に釘を打ち込みながら、木原が口を開いた。

盛り上がっているクラスメイトの声にかき消されそうな音量のそれに、あぁしろの話なんだろうなと察してしまう。


「このまま止めた方がいいと思うよ、俺」

「んー……」


分かっては、いる。そのつもりでもいる。

ただなんとなく現実味がないのも事実で。
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