嘘吐きな恋人
「どうしたの、千沙。すごい顔色悪いけど」


慌てて駆け寄ってきたしろが言ったそれは、その通りなんだろうと思う。

――でも。

合わすように膝をついて、あたしの顔に伸ばしてきたしろの手を、反射みたいにあたしは振り払っていた。

苦しい。痛い。
でもそれは、身体じゃない。違うのだということなんて、もうずっと思い知っている。


「……千沙、俺、いない方がいい?」


今までずっと、そんなこと言わなかったくせに、しろが言った。
中途半端にあたしとの間に浮いていた手を握りしめて床にしろが下す。

しろの顔を見たくなくて俯けば、その握りこんだ手ばかりが視界に入った。震えているように思えてしょうがなかった。


なんでそんなことを言うのと、ここでそれをあたしが言うのは間違っているのだろうか。

俯いたままのあたしに、しろがやたら優しい声で問重ねてくるけれど。

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