嘘吐きな恋人
「どっか痛い? きついんだったら先生呼んでこようか。保健室まで行けるんだったら着いてくよ、千沙が嫌じゃなかったら」


口を開いたら、どうしようもないものが溢れてきそうで、何を言えばいいのか分からなくなる。

ずるいと思う。かみしめた唇が切れたのか、血の味がした。


応えれないでいると、小さくしろが息を吐いた。
「先生呼んでくるね」と膝を持ち上げかけたしろのシャツを、気が付けばあたしは握りしめていた。



「千……沙?」


驚いたようなしろの声。

でもすぐにまたしろが膝をついたのが分かった。
視線をほんのちょっとあげればいい。そうすればしろが今どんな顔をしている分かる。

でもこの期に及んで、それはできなくて。


やっとの思いで絞り出した声は、ひどくかすれていた。


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