嘘吐きな恋人
「―――行かないでよ」
一度あふれ出したそれは、とどまることなんて知らないみたいに内側からどんどんどんどん流れ出してくる。
行くかないでと本当は、ずっとずっと言いたかった。
なんであたしをおいていくのと。あたし以外の誰かの傍にいるのと。
どこかに行くのなら、せめて完璧にあたしを捨ててからにしてほしいとさえ思った。
なのにしろは絶対にそれをしないから。
あたしをおいてどこにでも行くくせに、あたしが同じ場所で待っていると信じて疑わないような顔で笑うから。
「あたしは、あんたが傍にいると苦しい」
吐き出した瞬間、しろのまとう空気が緊張したのが分かった。
「俺と一緒にいて千沙は楽しい?」そうしろが尋ねた時、言えなかったのはこれだ。
傍にいると苦しい。
でもそれだけじゃないから、たまらなくなってしまっているのに。