嘘吐きな恋人
「だったら、いてよ、ここに。ずっと」

「……うん」


自分がどうしようもなく勝手なことを言っているのは、分かっていた。
なのにそのしろが、やたら愛おしそうに目を細めるから、困る。


「俺は本当に、千沙さえいたら、それでいいんだ」


噛みしめるように呟かれたそれに、また胸が詰まった。

信じたくなる。それで今度また裏切られたら、今よりずっとしんどくなるのは目に見えているのに。

でも、信じていたかった。


「そうだ、千沙」


緩やかに微笑んで、「はい」とあたしの手元に押し付けてきたのは、しろの携帯だった。


「千沙にあげる。好きにしていいよ」

「好きにって……」

「言ったでしょ? 千沙以外、いらないからって」



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