嘘吐きな恋人
「千沙さ、前に俺のどこが好きだったんだって、そう俺に訊いたよね。俺ね、千沙がいたらもうそれだけでいいんだ、本当に。どこが好きになったのかもう理由なんてわからないくらい、千沙がいるだけで」
凪いだように穏やかに綴られるそれは、不思議なくらいすとんと中に落ちてくる。
でもしろを信じたいとあたしがそう思うのは、しろのためなんかじゃないんだ。
あくまであたしがそう思いたいからなだけで、いわばあたしの勝手で。
しろを好きだと自覚したときのことをふっと思い出した。
今までずっとその記憶にだけ、あたしは縋ってきていたけれど。
「……あたしもそうなのかもしれない」
たぶん言うつもりはなかった。本当に思っていたかどうかすら怪しい。
でも、なぜかそんな言葉が零れ落ちた。
その瞬間、表情を覆うようにしろが俯いた。
長めの前髪に覆い隠されたしろがどんな顔をしていたのか、何を思っていたのか、あたしには分からないけれど。
「ごめんね、千沙」
ぽつりと吐き出されたそれは、泣き出しそうな響きを滲ませていた。