嘘吐きな恋人
それからくだらない雑談を少しだけして、早く治せよと俺は腰を上げた。
あまり長居するのもよくないだろう。

そしてそのまま外に出る。
軒下から一歩踏み出すと、きつい日差しに肌があっという間に暑くなるようだった。




――ねぇ、木原。

ひどく真剣な目で俺に相談を持ちかけてきた千沙を、俺は鮮明に覚えている。

半年ほど前の冬だ。1年の3学期。

長い付き合いだけど、人を頼るのが苦手な千沙が俺に相談事をしてくるのは珍しいことでもあった。


――しろがさ、浮気してるかもしれない。結城さんに泣かれたの、別れてって。


そう俺に尋ねた千沙は、確実に否定を求めていた。ねぇしろがそんなことするはずないよね、と。

隣のクラスの結城里帆が城井に思いを寄せているということは、たぶんうちのクラスの奴だったら誰でも知っていただろう。
休み時間ごとに突撃してくる結城を、例によって女を邪険にしない城井は優しくいなしていたけれど、面倒だと思っていることは俺の眼には明らかだった。

そもそも城井は、誰にでも優しくする割に、千沙以外をどうでもいいと思っている節が強い。

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