不思議電波塔
話しているうちに由貴は少しずつ気分が悪くなってきた。
(期待しているよ)
(出来るよね君なら)
(みんなを引っ張って行って欲しいんだよ)
(何もかも持っているくせに何もしないなんてずるいから)
(いじめているんじゃないよ頑張ってほしいだけなんだよ)
それで俺から出てきた言葉を何かの踏み台か試作のように使うだけなんだろうか。
まるで王や指導者のように賛辞を贈り、出来ないと言えば器が小さいとたたきのめす。
──俺、頑張ってきたんだけどな…。
なんだろう。
なんのために頑張ってきたのだろうか?
自分のためと言えば、たぶんもうこれ以上傷つけられたくなかったから、頑張ってきたんだろう。
頑張ることだけが自分を護ることの出来る唯一の方法だった。
だって人は死んでしまうから。
失った時に、人に心を寄せすぎて、立てなくなってしまう自分になってしまうのは、惨めだから。
誰から傷つけられても裏切られても平気なように、何かは出来る人間になれるように。
それ以外には何も望んでいない自分がいた。
あまり傷つくことが多すぎると人の心は萎縮してしまうものなのだろうか。
本当の自分なんて、何処にもいないんだよ。俺の中には。
人の心をたたき潰して殺しておいて、何がしたいのかなんて俺に聞くなよ。
結局周りの思い通りにしか動いて欲しくない模範生でいてほしいだけなら、俺の意思なんて本当のところでは邪魔なものとしてしか扱わないのに。