不思議電波塔
吐くところを見られても平気だったのは四季だったからだろうと思った。
四季が白血病で倒れた時は逆だった。
抗がん剤の副作用で四季は食べてもすぐ吐いてしまっていたのを思い出した。
こういうのが健康的な自然な姿なのだとか、恥ずかしく思うなとか言われているだけなのかとも思うが、たったそれだけのためにたたかれているだけなんだろうかとも思うと、それにこだわっている人間も一体何?と意味もなく思えて、吐く元気もなくなってくる。
由貴はところかまわず吐いたりはしない。
見ている人が気分がわるくなってしまうだろうし、人のことをどうでもいいとは思わないからだ。
「……。ごめん、四季」
由貴は水で顔を洗い、息をついた。こういう時に四季がいてくれるのは心強い。
四季自身がこういう経験を多く積み重ねてきているから、四季も動じないし、安心していられるのだ。
「由貴、休んで。今後どうしたらいいか話をしようかと思っていたけど、たぶん今日は無理だよ」
「…うん」
四季は軽く抱きしめてくれた。
「涼ちゃんに甘えてみてもいいんじゃない?」
「……。甘え方なんて知らないよ」
「じゃあ僕が涼ちゃんに言っておく」
「……」
何を言う気なんだろうかと思ったが、ひどく疲れた気がして考えるのをやめた。
「四季」
「何?」
「…ありがとう」
「うん」
「忍からのど飴もらっていたんだった」と、四季が由貴にのど飴をくれた。
それを口に入れると少し気分が落ち着いてきた。
『何かに呼ばれている気がするの』
──涼は自分の代わりにそう言葉にしてくれたのだろうか。
*