不思議電波塔
由貴は休むことは了承したが、涼が「そばにいてもいい?」と申し出ると拒んでしまった。
ひとりの方が落ち着いて眠れるからだという。
「いいよ、涼ちゃん。由貴がひとりになりたいって言う時は放っておいた方がいいんだよ。あまり心配するとね、由貴かえって神経遣って余計疲れさせてしまうから。眠った頃にそばに行ってみるといいよ。一度眠ったら、その後は目が覚めたりしても、そばに誰かがいてくれるの、嬉しいみたいだから」
小さな頃からの由貴を知っている四季は、そう言った。
涼は「うん」と答え、きょろきょろと部屋を見回した。
「書くものはどこ?」
「ああ、紙と筆のこと?」
「ここにあるよ」
忍が持ってきた。涼は少し困った表情になる。
「涼、感じとったことメモしたいから、本当はシャーペンか鉛筆がいいんだけど…。この世界にはないのかな?」
「ああ…ペンぐらいはありそうだけど、シャーペンはなさそうだよね。鉛筆もどうだろう」
「そうだ。ノートとシャーペンを描けばいいのよ」
「それもそうだね。…あ」
「どうしたの?」
「学校の鞄。携帯は制服のポケットに入れてたから、無事だったけど、鞄は何処に行ったんだろう」
「──言われてみたら…ここに飛ばされた時はもうなかったわ」
「涼の鞄は会長のお部屋だから大丈夫。四季くんと忍ちゃんの鞄、描いたら出てこないかな?」
涼の提案に四季は「やってみる価値はあるね」と言った。
「手元に戻ってくるのをイメージしながら描けばいいのかな?」
「そうね。私も描いてみる」
「忍ちゃんも絵に描いたものが本当になる魔法、使えるの?」
「使えるようにしてもらったの。四季に」
「涼ちゃんも使えるようにしようか?」
四季の優しい言葉に、涼は軽く首を振った。
「ううん。涼は、会長が涼の力を必要だと思ってくれた時に、会長に魔法をかけてもらうからいいの」