不思議電波塔



 四季と忍が描くのを涼はおとなしく見ていた。

(会長大丈夫かな──)

 体調を崩しているのが明らかに精神的な理由だろうとわかっているだけに、つらい。

 ただの風邪とかならきちんと食べてゆっくり休めば治るという対処のしやすさがあるのだが。

 さらりと四季が描きあげる。

「僕の鞄、戻っておいで」

 絵を見つめ言葉にすると、涼がまばたきをした次の瞬間には、四季の手に鞄があった。

「わ…。良かったね。四季くん」

「うん。涼ちゃん、紙とシャーペンだよね。シャーペンは僕の使って」

「ありがとう」

 やがて忍も描きあげる。

「迷子の鞄、出ておいで」

 かくれんぼでもしているかのような楽しげな口調で忍は言った。

 忍の手に鞄が戻ってくる。

「良かった。私の鞄も無事だわ。──涼、ノート使う?私、まだ使っていないノート持ってるの」

「いいの?」

「うん。役に立てて」

「ありがとう」

 涼が書きとめておきたいと思ったのは、由貴が書くのがつらい状態なら、自分が代わりに由貴の思っていることを書けたら、と考えたからだった。

 それなら由貴は横になったままでも、思ったことを話してくれたら、自分が書きとめておくことが出来る。

 涼はノートを開くと、1ページめに今日起こった出来事を記し始めた。

 由貴の小説の文体を思い起こしながら、それのつづきの話として不自然にはならないように。



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