不思議電波塔
鉛筆がスケッチブックの上を転がる。椅子の背もたれにもたれかかり、祈がのびをした。
描いた絵は新しいスケッチブックまるまる2冊分。
苳夜が祈の方を窺い、描かれた最後の1枚を見て感嘆する。
「…すごい。きちんと時間を追って描けてる」
祈はふわりと笑った。
「久しぶりに描いたから、集中出来た。四季のイメージイラストを先に見ていたのもあるし、由貴くんの物語もバックボーンがきちんとあるから描きやすかった」
「俺はあと一息。よし、ラストスパート」
苳夜と祈で話し合って、それぞれどのシーンを描くかを割りふり、描くようにしたのだ。
苳夜は由貴たちが「あちら側」に飛ばされる前までの場面。祈は地図と人物の描き起こし、飛ばされて後の場面である。
時刻は午前2時になっている。智も書いていた手を休めた。
「会長が書けなかった分の描写もOK。シェネアムーンが記録映像見せてくれたから。早瀬さんはどんな感じ?」
「こっちも大丈夫。結構面白いもんだね。あの子たちの様子を書くってのも」
早瀬の方はずっと根をつめて携帯を見ているわけにもいかないので、時々隆史に代わってもらいながらの記録になった。
「ところで、この書いたものは何かの役に立つんでしょうかねぇ?とりあえず『午前2時まで』と言われるままに書きましたけど」
隆史が呟くと、チョコレート人形のユリが答えた。
「ぼくたちの仕事は『あちら側』に飛ばされた由貴たちのことを、由貴と四季が物語を十分に書けない間代わりに書いておく必要があったのと、尾形晴にいいようにシナリオを書き換えられないため。尾形晴も思うように書けなくて苦戦したはず。午前2時までという時間制限があったのは、由貴がついさっきまで『不思議電波塔』で物語を書いていて、ようやく『あちら側』に飛ばされた自分たちのこととカウフェリン・フェネスの物語の繋がりを文章にすることが出来たため。由貴の意志によって、ここに書きとめられたものは、1冊の本になる。苳夜、最後の絵はもう描けた?」