不思議電波塔
四季の魔法で気分の良くなった由貴はフィノを見た。一礼する。
「初めまして。──俺が言うのも変だけど。綾川由貴です」
フィノはにこやかに言った。
「初めまして。ふふ。何だか、ジャスティとはだいぶ印象の違う方なのね」
武骨で実直そうな雰囲気の由貴に、フィノは言う。
ジャスティと由貴の視線が合った。
「初めまして。お兄ちゃんが僕を書いてくれたの?」
無邪気に見上げられると何だか気恥ずかしい。
「うん。『由貴』でいいよ。『お兄ちゃん』とか…そんなガラじゃないし」
戸惑ったような顔になるジャスティに、四季が言った。
「由貴、シャイなだけだから。気にしないで」
「──シャイじゃないよ」
「シャイじゃなかったら、何なの?」
「……。知らない」
何だか可笑しい。
忍が「行こうか」と切り出してくれて、由貴はほっとした。
カウフェリン・フェネスの人物では、由貴は雰囲気的にはリュールに近い。
リュールが由貴に話しかけてきた。
「10歳の子供を立てて物語を描くか。何か理由でもあるのか?」
由貴はジャスティを見て…伏し目がちに語った。
「俺が母親を失ったのが、10歳の時だったから」
リュールは自分の行く末を決めていくのかもしれない存在を目の前にしていることに、不思議な感覚を抱く。
「作家というのは、もっと傲慢な生き物のようなイメージが俺にはある。それこそ、その世界の君臨者のように。でも、お前を見ているとそうではない印象の方が強い。それが俺は嫌いじゃない」
その言葉は、由貴が書いたシナリオではなく、リュールから発せられた言葉だった。
「俺は両親の記憶なんか殆どない。お前がそういうふうに書いてくれたからかもしれないが。感傷だけで物を語る人間は俺は嫌いだ。生きる時にそんなものは何の役にも立たないからな。でも、ユニスなんかを見ていると、お前は多分感受性の強さも持ち合わせてきているように思う。お前の中にはいくつもの感情の引き出しがあるのか?思い通りにしたいだけの物語ではないのなら、お前はこの世界に何を託そうとしている?」