不思議電波塔



 いつになく饒舌なリュールに、由貴も興味深そうに反応した。

「世界はある一定の原理で物事が回っている。それがきちんとしていないといろいろな物事が破綻する。俺は物語を書こうと思った時に、俺がカウフェリン・フェネスのことを考えていない時も、そこに住まう人がそれぞれの時を過ごしていられるようにと、出来るだけのことは考えた。リュールや、ユニスといった人物については、ある程度の人となりとエピソードを持たせた後は、出来るだけリュールやユニスがそれぞれの意志で生きてゆけるように、必ずしも俺が考えていた当初の設定通りではない選択をしたとしても、その時を生きたその人の決断を大事にする物語になるようにした。だから俺はリュールたちを書いてはいるけど、俺がリュールたちを縛ろうとは思わない。人の心は自由だから。どの世界に在っても。感情の引き出しは──数えたことないからわからない」

 由貴の言葉は淡々としていた。

「ごめん。リュール、俺に対して憤りがあるみたいだったよね」

「…まあな。が、今は違う」

「?」

「どんな状況下にあっても、突破口を探せばいいだけの話だろう。そんなものは。そもそもお前が書いていなければ、俺たちは存在すらなかった。俺は自分がここにいるということを嬉しいと思っている。いいことだけを受け入れて、喜ばしくないことだけをお前のせいにするのは、筋が通らないだろう。いいことを受け入れたいなら、喜ばしくないことも受け入れてそれぞれに考えろという話だからな」

 小説を書いていると、時々、ふっと登場人物が自発的に語り始める瞬間がある。

 それが由貴には不思議だ。自分のアイデンティティーからは離れていても、人には想像力や洞察力というものがある。

 それをもって、そういうことが出来てしまう瞬間があるように感じることがあるのだ。

 由貴はリュール自身の言葉を聞いたようで嬉しかった。

「そういうふうに言ってもらえると、俺も救われる」



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