不思議電波塔
言葉──言葉──言葉。
何処まで行っても、人のいるところに待ち受けているものは、あらゆる感情を詰めるための言葉という袋たちだ。
不必要に疲れやすい言葉だけを拾わないように、と由貴は思う。
憑かれるものに捕らわれてしまわないように。
ハロンへの道が、空路も海路も閉ざされているというので──アレクメスとハロンは陸続きではないので陸路はないのだ──忍がハロンとアレクメスを繋ぐ回廊を作ろうとした。
大きな円を描いた時である。通常、描いたそこにゲートが出来るはずなのだが──そこには大きな顔が現れた。
顔のある満月が天から落ちてきたような奇妙な光景。
大きな顔は言った。
「何者だ。何者だ。何者だ。何回言えばいいのだ。私はゲートの番人。私の満足する答えを示せ。さもなくばここを通さぬ」
忍は落ち着いて言葉を返した。
「南の海には青龍の森がある。私たちはゲートとなる万人。葦を満たすのは希望なり」
顔は目をうっすらと開けた。
「少しは物を見てきたか。希望とは何だ」
涼が顔の前に進み出た。
「稀に望むものであること。挑むこと。希望が欲とは違うのは、欲はよくあること。よくあることを人は人に望まない。自ら果敢に挑戦するものでもないから。大口を開けて欲しがるようなもの」
「ふむ。挑むと答えたな。円とは、縁。0と描けば、愚者。心がまわりくどい者を愚かと言うが、言葉を幾重にも使う者を見る時、賢いようでいて愚かさを露呈している者が人であることに気づくだろう。縁も人も愚かかもしれぬ。それでも門をくぐるか」
由貴が答えた。
「何もないところにしか、そこに無かったものは生まれない。既にあるものは、完成されている。1は魔術師。0の次に来るもの。俺は夢を見たい。──ユニス」
「はい」
ユニスが顔の前に来た。
「私は魔導の力を与えられた者。すべての夢は創造される」
顔は答えた。
「よかろう。私は退屈していた。夢を見せてくれ」
由貴たちはゲートをくぐった。
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