不思議電波塔
第二章 鳴き龍
放課後の器楽室。
四季を待ちながら、忍はヴァイオリンの練習をしていた。
揺葉忍。2年F組。音楽科。四季の彼女である。
進学科の四季は2年A組でクラスが違うので、待ち合わせたりして一緒に帰ることが多い。
ほどなくして進学科も終わり、四季が器楽室に来た…のはいいのだが。
人当たりのよい王子スマイルがトレードマークのような四季が、いつになく表情が乏しい。
「四季、何かあった…?」
心配げに問いかけた。
四季は由貴を傷つけたのが誰なのかが気になっていた。
「何か、由貴をやっかんでいるのか知らないけど、由貴が傷つく言葉言われたらしくて」
「え?」
「由貴も、ひとりで抱え込むし。いいよって言って。良くないよ。不当に傷つけられたなら言い返していいのに」
「ええと…。由貴が誰かに中傷されたから四季は怒っているの?」
「そう」
四季はため息をついた。忍は優しい表情になる。
「何だか、由貴と四季って面白いね」
「面白いって?」
「由貴も四季も自分が傷つけられてもそんなに怒らないのに、四季が傷つけられたら由貴が傷つけた人を怒るし、由貴が傷つけられたら四季が傷つけた人を怒るし」
分析されて、四季の目が宙を彷徨った。
「…そうだね。そうかもしれない」
「でしょ?」
忍は笑った。
「由貴をやっかむ人がいたとしても、由貴には四季がいるから、何処かで心が癒されていると思うわ。由貴がいいって言うなら、そんなに気にすることはないんじゃない?」
「そうかな」
「由貴に聞いてみるといいわ。傷ついているところを察してくれる人がいるって、心強いものよ」
そう言う忍の言葉は、忍自身がそうであるというふうにも聞こえた。