不思議電波塔
四季がそこでクマを見る。
「由貴、このクマ、由貴の設定外のところから紛れ込んで来てるよね。カウフェリン・フェネスから自然派生するには言葉がそうではないし、由貴の設定でもなかったと思うし」
「そうだね。クマのぬいぐるみ、というだけなら、涼が喜びそうだったから、クマが話すエピソードを持ってはいるけど──こんな、おっさん成分の入ったクマは、俺は書いてない」
由貴はそう言いクマに──もしかしたらクマを通して、こちらの様子を窺っているのかもしれない尾形晴に訊いた。
「おっさん成分を拾って、このクマにでも混ぜたの?尾形晴」
晴は姿を見せることなく、あたりに声だけが響いた。
『あは。バレちゃった?だって由貴の物語って、いい子過ぎるからさー。全体的に?僕がちょっとお部屋の配置変えちゃった。ごめんねー』
「全然ごめんねって思ってないよね。他人の部屋に無断で上がりこんで土足で踏みにじるのがお前の礼儀?おかしいから」
バッサリ由貴が言い捨てた。
『ねえ、由貴。考えてもみなよ。小説の世界が由貴ひとりの世界であることって、そんなに大事なこと?人間の考えることってさー、どの人間も似たり寄ったりだと思わない?』
「それで、本当の唯一の作家の考えている事を無断で勝手に吸い上げて、枯渇したら、ゴミ同然に書けなくなった作家を捨てて行くって話だよね。お前にそのつもりがなくても、勝手に小説を言い様に書き替えたり、お前がこの物語の作者のように振る舞ったり、お前のやってる事は、創作じゃなくてただの荒らしだよ。俺は小説はひとりで書くものだと思っているけど、もし複数の人間で作るとしたら、協力して欲しい人間は選ぶ。作品をでたらめに迷走させたくないから。そんな話の作り方をされても、ジャスティたちだって、いい迷惑だよ。日本は本歌取りの文化がある国だけど、ここまで礼節のない乱暴な遣り口は暴力の野放しでしかない。俺はいい加減な気持ちでジャスティたちの運命を振り回す気なんか、さらさらない。二次元作品なら、俺とは一切関わりのないところで書きましたって言えばいいだろう。何故俺が書いてきた物語を、お前と俺が書いた話にしなければならない?俺がお前にそう望んでもないのに。迷惑だ!」