不思議電波塔
「え?苳夜くんの家に行く?」
由貴の話を聞いた四季は目をまるくした。
従兄で同じクラスの四季は、由貴と2台ピアノで弾いたりするくらいに仲がいい。
今日は学校帰りに、四季の部屋に遊びに行く話をしていたのだが──。
「へぇ…。何か面白そうだね」
「え?」
四季の反応に、由貴が若干意表をつかれた様子になる。四季は由貴の知らない苳夜の一面を話してくれた。
「苳夜くん、絵、上手いんだよ。美術の時間に描いていた絵を見て、普段から描いている人の絵だと思って、好きなの?って聞いてみたら、マンガが好きなんだよねって。鉛筆書きのストーリーマンガ読ませてもらったことある。面白かった」
「え…そうなんだ。ああ、じゃあ親父が言ってた『締め切り』ってそれかな?」
「締め切り?」
「マンガの。『先生、俺、今締め切り追われてるんで』って電話切られたらしいんだよね。もしかしたらプロか何かなんじゃないの?」
「ええ?ほんとに?」
「すごいな…。これで本当にプロだったら今修羅場だよ、苳夜」
「わー…楽しそう。僕も行っていい?」
「楽しそうって、遊びに行くんじゃないんだけど。苳夜、それどころじゃなかったらどうするの」
「それどころじゃなかったら、苳夜くんの手伝いすればいいんじゃない?僕、絵なら描けるし」
「ああ…。そういえば四季なら大丈夫か」
四季は芸術科目では飛び抜けて優秀である。音楽、美術においては教師達も舌を巻くほどには。
「何か、苳夜がマンガ描いているの前提で話してるけど」
「絶対そうだよ。絵を描くのが好きな人で他に締め切りって何か思いつく?」
「同人誌…の締め切りなわけないか。担任に『締め切り』って話すくらいだから、理由の通るやつだよね」
「同人誌の締め切りだったら、それはそれですごいけど」
「担任は出席日数の心配もしてるのに?あり得ないな」
「ふふ」
そういう話の流れで、由貴について四季も苳夜の家に一緒に行ってくれることになった。
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