不思議電波塔
「状況が状況なら、俺もお前を殺してもいいと思った。そうでなければ、奪われて行くだけだ。こっちも何でも奪われていいほどのお人好しでもない。ただ人間の本性がどうとかいう理由で、努力や良心を捨てるのは違うと思う。こんな考え方、ある人間にとっては損する考え方でしかないから、バカバカしい話かもしれないけど」
「……」
「あきらめたら、終わりだと思う。俺はあきらめない。出来るだけの力は尽くす。それが俺の生き方」
「で?僕を倒すの?倒さないの?」
由貴が晴に詰め寄った。
容赦なくその頬に平手が飛ぶ。
晴はそれをまともに受けて、顔をあげると笑った。
「あは。やっぱり、ぬるいね。もっと怒るかと思ったのに」
由貴は真っ直ぐに言った。
「お前ひとりを始末するレベルで怒るなら、この世には始末しないといけない人間でいっぱいになってしまう。尾形晴という人間ひとりに罪を被って死んでもらっても、何の意味もない。それから──ハロンをどうしたいのかは俺が決める」
「つまんないのーお。あーあ、ケンカする相手、間違えちゃったかなぁ」
子供のような言いっぷり。本当に子供なのか、大人なのか、どちらなのかはわからないが。
そこに、ひとつのゲートが開き、チョコレート人形のユリが現れた。
「尾形晴。もういいんじゃないの?」
「あーらら。チョコちゃんまで現れちゃった。はいはい。返しますよ。返せばいいんでしょー」
何のことかと思ったら、尾形晴が急にふっと意識を失い、倒れ込んだ。
チョコレート人形のユリは、尾形晴の身体を抱きかかえる。
「尾形晴を保護。任務完了」
「え?どういうこと?」
「尾形晴は、この『マイナスの想念の集合体』に身体を貸していた。何故貸す経緯になったのか理由はわからない。でも、由貴たちが勝ったから、もう同じものは晴には寄りつかない。安心していい」