不思議電波塔



「尾形晴本人の意志ではなかったわけか…」

「時々、ヒントをくれたりしたのが本当の尾形晴かもしれない。想念の集合体もいつも強い力を奮っているわけじゃない。本当の身体の主の意志が強ければ、思い通りにはならないから」

 ユリの言葉に、由貴はこれまでに起こってきたことに思いを馳せる。

 人の力の強さ。ひとりで決断することの大切さと、人との繋がりの大きさ。

 どちらも良く作用すれば発展していけるし、悪く作用すれば綻びをもたらす。

 両刃の剣。

 でも。

「俺が、物語を書くのが好きなのは、俺以外の人がいてくれたからだと思う。生まれてから一度も人を見ていなければ、人の出てくるものなんて書かなかったはずだし」

「由貴」

「こんなふうに晴と接触するきっかけがあったのも、ユリに会ったのも、意味があることだったんだと思う。そういうふうに考えて生きると嬉しいし」

 ユリは「そうだね」と答えた。

「じゃあ、またね。今度、もし、会えることがあるとしたら、ぼくは違う姿かもしれないけど」

「そうなの?」

「そう。ぼくの姿は任務を終えると変わる。それがチョコレート人形の役目」

 ユリは四季と忍の方にも歩いて来ると、四季に言った。

「またね。本当は四季のこと、ちょっと好きだった」

 四季は驚いたように、ユリを見る。ユリは笑った。

「揺葉忍みたいにつくられたからかな?でも、本物の揺葉忍には敵わないね」

 四季は微笑んだ。

「ありがとう。もうひとりの忍」

 四季がユリの手を取ると、ユリは笑顔を返した。

 ユリの姿は風に消えて、見えなくなった。

 日本時間、午前7時。

 由貴たちは日本に戻った。



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