不思議電波塔
部屋のドアがわずかに開いていたのか、ややして様子を窺うようにドアが開く。
「四季?起きてるの?」
忍である。
10月下旬に桜沢の家から綾川の家に養女という形で移って来た忍は、四季と同じ家に住んでいる。
部屋は別々だが。
四季のとなりで眠っている由貴を見て「どうしたの?」と驚いたように言う。
四季は笑った。
「さっき部屋に来るなり、潜り込んで来て。眠いんだって。涼ちゃんじゃなくて僕のところに眠りに来るのが由貴だよね」
忍は苦笑した。
「涼の家じゃ、由貴は緊張して眠れないと思うわ」
「ごめんね。由貴が隣り占領してて」
「いいわ。こういう時は仕方ないもの。何か作って来ようか?」
「忍、大丈夫?僕、起きて作れるけど」
「大丈夫。四季はしばらく由貴のそばにいた方がいいんじゃない?──ああ、由貴の分も作った方がいい?」
「うん。作ったら食べると思う」
「了解」
忍は少し遅い昼食を作りに行ってしまった。
やがて忍が、四季と自分の分の食事を運んで来る。由貴の分は起きた時がいいだろうということで入れていない。
四季は由貴を起こさないようにベッドから抜け出してきて上着を羽織る。
忍と昼食を食べ始めた。
無造作に投げ出された由貴の鞄から四季のスケッチブックが覗いているのを見て、四季が鞄を引き寄せた。
「スケッチブック、無事だったんだ」
「四季の描いたっていうユニスたちの絵?そういえば私、まだ見てなかったわ」
「見る?」
四季はスケッチブックを取り出すとページをめくった。
幾つかのスケッチの後、いちばん新しく描いた絵がユニスたちの絵であるはずだった。
だが。
「──あれ…?」
その絵だけが無いのだ。
「どうしたの?」
「ユニスたちの絵だけが無くなってる。──あ…そうか」
四季は由貴の鞄にその本が覗いているのを見て、笑顔になった。
「これにあるのかもしれない」
「青龍の森の書」を、取り出した。