不思議電波塔
青龍の森の書は、四季の描いたイラストの色彩の装丁になっていた。
象牙色のハードカヴァーに優美な曲線の唐草模様のデザインが施され、表紙には「青龍の森の書」のロゴ。
表紙を開くと、白い遊び紙を一枚挟み、青龍の森の風景が広がった。
写真なのか絵なのかは判別がつかなかった。
この絵は四季は描いていない。祈と苳夜のタッチでもなかった。
だが、それを実際に目にしてきた四季にも忍にもそれはリアルに心に飛び込んで来た。
「この絵…四季が?」
「ううん。僕じゃない。──たぶん、これは由貴の心にあった『青龍の森』なんだ」
「由貴の…」
「イメージ力ってすごいね。リオピアの王宮を歩いていても、僕、自分のイメージした世界があることの心地良さを感じると同時に、僕のイメージにはなかった由貴のイメージの世界に魅せられていた。心が洗われるような気がした」
「そうね。カウフェリン・フェネス、魅力的だったわ。もう一度行きたいと思ってしまうくらいに」
忍も頷いて微笑む。
物語は「十五の詩」から始まり、カウフェリン・フェネスの歴史はほぼ由貴の書いた文章で構成されていた。
こちらがわのことと、こちらがわから見たカウフェリン・フェネスのことを記した文章は隆史・早瀬・智の文章がうまく溶け合ったものになっていた。
絵は最初に描いた四季の絵柄をベースに、祈と苳夜がそれから外れないように描いてくれたため、本文と隣り合って時折出てくる挿し絵はどの絵が誰が描いたものなのかはわからないようになっていた。
一部、わかるものもあったが。
「あ、のど飴」
忍が自分の描いたのど飴の絵が出てくるのを見て、笑った。四季の描いた司教のような服の絵もある。
物語は由貴たちがユニスたちと協力をしてハロン国の綻びを直し、日本国に戻ったところまでが記されていて、その後のカウフェリン・フェネスの物語はまだ白紙のままになっていた。