不思議電波塔



 由貴はノートを広げた。

 プロットを考えるために今までに書いた小説を読み返したりする時間が、最近は楽しい。

 最初から丁寧に目を通していて…由貴はやがて、小さな異変に気づいた。

 ユニスを書く時の一人称は「私」を使っているはずなのだが、それが「僕」や「俺」に書き換えられていたのである。

 いい加減な気持ちで書いてきたキャラクターではない。

 ユニスの考えていることや話し方は、由貴の中ではくっきりとした輪郭を持っていた。

(ユニスは、こんな話し方しない)

 薄気味の悪さを感じて、ノートの端から端まで目を通した。

 小さな異変は一人称が数ヶ所、書き替えられていただけ。

 だが、由貴の中の不安は大きかった。

(いったい誰がこんなこと──)

 意味不明だ。

 こんなことをして何のメリットがあるのか。

 もっとも、この程度ならただの誰かの悪戯という可能性も否定出来ないのだが。

 これが悪戯ならずいぶんデリカシーのない行為だとも思うのは、個人的な価値観だとして。

(こんなことが出来るんだな、人って)

 他人の大切にしているものをそうと認識していなければ、簡単に踏みにじったり。

 そこに悪意があっても、なくても。

 なにものにも執着しない達観者の采配か、混乱を待ちわびる暇人の仕業なのか、或いは人喰いの類いなのかは判然としないが。



< 23 / 227 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop