不思議電波塔
電話の向こうの尾形晴のわずかに動揺する気を感じとり、チョコレート人形は「彼は四季ではない」と直感する。
「似せて」いるだけだ。
「四季?どうしたの?」
『──』
「答えないなら、確かめに行く」
『──!?』
もうひとりの揺葉忍は由貴の携帯で、大きく輪を描いた。
ぽっかりと由貴の部屋に通話が繋がっている向こうへと続くゲートが出来る。
由貴たちに言った。
「通ることを『許す』。通って。早く」
「え?う、うん」
「涼も?」
涼の問いに忍は微妙な表情を返した。
「決めるのはぼくじゃない」
「そう」
涼は由貴の後に続き、ゲートを通る。フェロウが続き、最後に忍が通り、ゲートは閉じた。
もうひとりの忍がいることと、由貴たちが「あり得ない」ところから現れたことに、尾形晴は面喰らっている。
「どういうことだ?お前…由貴か?」
「そうだよ」
由貴は冷徹な視線を返した。
「四季、今、俺に向かって『お前』って言ったね?本物の四季なら、そんなこと言わない。本気で、誰?」
由貴は尾形晴の持っている携帯を取り上げた。晴の横で、何処か脅えたような様子だった忍に携帯を返す。
忍は由貴に向かって叫んだ。
「その人、四季じゃないの!四季は『尾形晴』に消されたの!」
「変なことを言うな!おかしいのは忍の方だ!」
四季の姿をした尾形晴は怒声をあげた。
涼が見ていられなくなったように晴の横にいる忍に駆けよる。
「涼は忍ちゃんの言うこと信じる!」
もうひとりの忍がにっこり笑った。
「自信満々だね。四季。本物の四季なら、この手、取れるよね?」
──何が起こるのか。
晴は窮地に立たされていたがこれはチャンスでもあると思った。
差し出された、揺葉忍の手を握る。
と──綾川四季だった輪郭が溶けた。
『尾形晴』その人が現れる。
尾形晴は悔しそうに、でも何処か余裕も浮かべた笑みになった。
「あーあ。バレちゃった。つまんないの。まあ、『綾川四季』の容れ物はインプット出来たからいいんだけどね。僕を僕の姿のままにしておくなんて、危険なことだよ。今度は誰がインプットされたい?」