不思議電波塔
もうひとりの揺葉忍が優雅な微笑みを浮かべた。
「インプット?──そうして、姿を喰った人間を貴様は何処へやった?声高らかに自慢出来ることか」
「は。こっちの忍は少しはものが見えているんだな。貴様こそ何者だ?」
「知らない?ぼくはチョコレート人形だよ」
「は?チョコレート?」
何処からどう見ても人間にしか見えないその姿を見て、晴は笑った。
「ははは。チョコレートね。盃の相場を左右する人形には、なりたくはないね。生きていて楽しいか?」
「楽しいか楽しくないかじゃない。ぼくには任務がある。信頼してくれる仲間もいる。貴様よりは」
チョコレート人形の揺葉忍は、自分を見ていてくれる者の視線の意味に気づいていた。
由貴、涼、忍、フェロウの目は自分に注がれていた。
「ぼくは四季に会わなければならない。インプットした『四季』の姿を返せ」
「お前、バカじゃないのか?記憶したものを返せだって?」
晴の小馬鹿にした物言いもそこまでだった。
恐ろしいスピードでしなやかな肢体が晴に詰め寄り、シュッと拳が風を切った。
晴の鼻先を掠める。
「……っ。あーあ、マジでキレてんじゃねーよ」
次の瞬間晴の拳が人形の鳩尾に炸裂した。
チョコレート人形はそれくらいではびくともしない。
晴の腕を捻りあげると投げ飛ばした。
晴の身体は、それと互角に渡り合えるだけの超人的な能力があるのか、空中で体勢を整えると両足で着地する。
「あはは。やばいねーこれ。どっちかが倒れるまで殴り合いになりそう?」
今ので少し腕を痛めたのか、晴が顔をしかめる。
人形は無表情を崩さない。
「『四季』の姿を返せ」
晴はへらっと疲れた表情を見せた。
「あー返しますよ、返しますよ、みんなで何で僕ばっかりそんなに悪者にするのかなぁ?そんなに幸せならさぁ、みんなで夢の世界にでも帰ればいいんだよ」