不思議電波塔
忍は安心したように笑顔を見せる。それから、チョコレート人形の忍をじっと見つめ返して、訊いた。
「あの…あなたは?どうして私と同じ『揺葉忍』なの?」
「それは四季に会わなければならないから」
「あなたも四季が好きなの?」
「好きか好きじゃないかじゃない。任務だから」
忍と忍の会話に由貴と涼は何か頭の中がこんがらがるような、可笑しいような奇妙な感覚になってきてしまった。
由貴が笑いながら、言った。
「とりあえずチョコレート人形の『忍』をどう呼ぶか決めよう。『忍』って呼んでふたり返事したらややこしいよ」
チョコレート人形の忍は適当に答える。
「じゃ『チョコ』でいい」
真面目に答えているのが可笑しい。
「て…適当過ぎない?」
由貴が困ったように言う。忍が言った。
「『ユリ』は?私は友達に『ゆりりん』って呼ばれてるけど、由貴も涼も四季も私のこと『ゆりりん』っては呼ばないし」
「じゃあ、涼、こっちの忍ちゃんは『ユリちゃん』って呼ぶことにする」
「俺は『ユリ』って呼ぶ。うん。その方がしっくりくるし」
「…さて。呼び名も決まったみたいだし。そろそろ出発するかね。ここ、気持ち悪いわ。『念の吹き溜まり』からの飛ばされた場所なんてのも、空気が澱んでるもんだ。長居はしないに限る」
フェロウが立ち上がる。
由貴が「ちょっと待って」と声をかけた。
「俺と涼、部屋からそのまま来たから、靴履いてない」
確かにそうだ。フェロウとユリと忍は靴を履いていたが、由貴と涼は履いていなかった。
ユリが由貴に聞く。
「靴は何処にあるの?」
「え?だから家の玄関」
「ちょっと待って」
すっと由貴の額にユリが手を当てる。
するり、と由貴の靴が一揃い頭の中から出てきた。
「これ?由貴の靴?」
由貴はぽかんとする。
「う…うん」
ユリはまた由貴の額に手を当て、今度はさっきよりも小さな靴を一揃い出してくる。
「これ?涼の靴」
「う…うん」
涼もびっくりしたように瞬きをして靴を受け取る。
「おいおいおい」とフェロウがツッコミを入れた。
「だからそういう離れ業をフツーにやるなっつーの。さらに時空が歪んだらどうすんだ」