不思議電波塔
ユリはフェロウを鬱陶しそうに見る。
「非生物は時空に影響する作用は少ない。非生物に『時間』の概念がないから」
端的に難しいことを言われた気がして、由貴はつい考え込んでしまいそうになった。
フェロウはため息をつく。
「お前の論理もわかるけど。あるはずの物体がなくなるのを見た人間やらなんやらに影響が出たらどうすんだ」
「ただいま」
帰宅した隆史は、玄関にある靴を見て、微笑ましい気分になる。
由貴の靴のとなりに涼の靴が並んでいるのだ。
部屋に来ているのだろう。
「仲良しさんですねぇ」
呟いて靴を脱ぎ、靴箱に入れようとして──。
「あれ…?」
隆史は目を疑った。
たった今までそこにあったはずの由貴と涼の靴が、ないのだ。
(おかしいな、確かに──)
隆史は二階に向かって声を投げる。
「由貴くーん。由貴くーん?」
返事がない。
二階に上がり、ノックをして由貴の部屋を開けてみた。
涼の鞄がある。やはり涼は来ているのだ。
机の上にはふたり分の珈琲の容器が残っていた。
しかし、ふたりの姿は何処にもなかった。
*