不思議電波塔
「何かすごいな、苳夜…」
同じ高校生なのに、まったく違う生活をしている人間のように感じて、由貴は呟いた。
「俺はどうなりたいんだろう」
由貴の抱える漠然とした不安に気づいたのだろうか。四季が穏やかに聞いた。
「由貴も何か書いているって言ってなかった?それ、どうなったの?」
「ああ、小説?うん…。書いているよ」
由貴は高校に入る頃から、四季にそういったことを話すようになっていた。
苳夜がマンガの世界で生きているのと同じように、四季の場合は本当にピアノに特化された生き方をしていて、将来はその方面で生きたい姿勢が既にある。
それをそばで見ていて、いつ頃からだろうか、由貴は自分の目指したいものが何なのか不安を覚えるようになり、四季に話すようになったのだ。
すると、四季からは「由貴、何か書いてみたらいいよ」という答えが返ってきた。
『自分の思っていることをそのまま紙に書き出すとか。そうすることで気持ちの整理がつくこともあるかもしれないし。文章ではなくても、絵でも何でも』
そう言われて、由貴は本当に「何でもいいから書く」というところから始めてみた。
見たことのあるような、ないような道を、迷って歩いている夢。
小さな竜巻がくるくると木の葉を舞い上げ、何処かに去って行った昼下がり。
混んでいる時間帯の店に気の短い中年男が店員に怒鳴っていた。チンタラしてるんじゃない。
ピアノを弾いていて、途中で弾けなくなった。思い出す別れ。つらくて弾けなくなるなら感情なんてなければいいのに。
書いているうちに、いつしかそれは「小説」という形になり始めた。
物語とはなんだろう。何故人に物語が必要だったのだろう。
けれども、書いていると心が浄化される瞬間があることを由貴は感じた。