不思議電波塔



「四季が言ってたみたいに、言葉にすることで気持ちが落ち着くところに落ち着くような瞬間ってあるみたい。ファンタジーを書いてるんだけど」

 想いめぐらせ、幾つかの言葉を書きとめているうちに、ある時ふと今までぐるぐる考えていたものが、ひとつの答えを持って降りてきたりする瞬間。

 不思議なことに、言葉というものは書きたいと思う時は自在に操れず、もどかしく感じたりするのだが、それまで考えていたことが嘘のように、縺れていた糸がするりと解ける瞬間もあるのだ。

 それは快く、純粋に書いてみたいという思いで満たしてくれた。

「ファンタジー?どんな?」

「俺達と同じ歳くらいで、神学校で学んでいる少年の話。神童と呼ばれていたりするんだけど、本人は自分のことを神童と呼ぶ人の心や、神という存在が何なのかを考えてる」

「人の心と、神か…」

「四季は『神』って何だと思う?」

「何だろう…。権威、概念、人智を超えるもの?」

 そう答えて、四季はふっと笑った。

「神学生ね…。そういうところに書きたいものが行き着いてしまうのが由貴らしいね」

「俺らしい?」

「由貴もトップクラスの成績で生徒会長もしているし、神童と見られている部分は絶対にあると思うから。人の目に晒されやすい存在であったり、期待を負う立場に立っているというのは、自分では意識していなくてもかなりストレスはあるものだよ。それが書きたいこととして出てきているんだと思う」

「そうなのかな…。こういうことを考えていると時々自分でわからなくなることもあるよ。何もこんな疲れること考えなくてもいいのにって思って。でもそのままにしておくのも気分は良くなくて、きちんと整理して考えようとして、そうなってしまうんだよね」

「ふふ。由貴、潔癖症なんだよ」

「考えていることが頭の中で散らかっていると、気分わるくならない?」

「ああ…。わかるけど。僕の場合は音楽が感情の引き出しになっているから、そんなに散らかることはないかな」

 四季の声は優しく響いた。



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