不思議電波塔
小さな頃から一緒にいることが多い従兄は、身体が弱く、部屋で過ごしていることが多かった。
独りっ子だった由貴にとって、四季は会いたい時にすぐに会える、ほっと出来る存在だった。
四季の親が四季をひとりぼっちにさせてはいけないと思ったのか、由貴の親が由貴をひとりぼっちにさせてはいけないと思ったのか、どちらかなのかはわからないが、幼い頃は本当の兄弟のように過ごして育ったのである。
由貴がピアノを弾き始めたのも四季が弾いていたからだった。
由貴の母親もピアノが弾けたので家にもあり、四季の部屋にもあったので、生活にピアノがあることはごく自然なことだったのだ。
その由貴のピアノの音が途切れてしまったのが、小学校四年。母親の由真が他界した。
家では由真に教えてもらうことが多かったから、家のピアノは由貴にとっては母親との思い出だった。
由貴にとって楽しかったものは、一変して悲しいことを思い出させるものになった。
以来ピアノが弾けなくなってしまうのである。
四季は由貴の心情を察したのか何も言わなかった。
それでも由貴は、四季の部屋に来ては四季の弾くピアノを聴いていたから、ピアノそのものがダメになってしまったわけではなかったのだ。
それから何年か経ち、四季の部屋でまた少しずつ鍵盤に触れるようになり、高校生になってからまたピアノを本格的に弾き始めた。
「去年の今頃、大変だったね」
冷たい風を頬に受けながら、由貴は一年前のことを思い出す。
今なんでもないように隣りを歩いている四季は、去年の秋、貧血で倒れた。
ただの貧血にしてはひっかかるところがあったため、精密検査をしてみると白血病だとわかったのだ。
病名がわかった時、四季は意外に淡々としていた。
子供の頃から身体がつらいことが多く、何度か「あまり長くは生きられないのではないか」と思うことがあると、そういった意味での感受性が冷静になってくるものらしい。
四季が最初に心配したのは、治る見込みがどれくらいあるのかということと、由貴のことだった。
早くに母親を失って、その後ピアノを弾けなくなっている由貴を見てきているため、自分の病名を知ったら由貴はどうなるのだろうか、と思ったのである。