天使の瞳

辿りついた所は小さな水道。

蛇口を捻ったタクはあたしの手をそっととり、落ちてくるその血を洗い流す。


「音羽、最近なんかある?」

「なんかって?」

「ほら、前みたいな幻覚とか…」

「別に…ないけど」

「そっか…」


タクは少しトーンを落とし小さく呟く。


最近タクは変わった。

あたしの所為だと思うけど変わった。


“こんな事になってんのもタクの所為!!”って怒鳴ってからタクはあたしを気にするようになった。

いつも目を向けてあたしを気にする。


だからあたしはその行動が嬉しくはおもわなかった。


もっと、タクはタクらしく、あたしに構う事なく居てほしい。

じゃないと、あたしが辛い…




「そんな切れてへんから大丈夫」


蛇口を止めたタクはあたしの指先をジッと見る。


「うん。ありがと」

「俺ティッシュとか持ってへんから誰かから貰ってくるわ」

「あー…あたし持ってる」


鞄をガサゴソして取り出したあたしは、まだ微かに出てくる血を拭き取る。


「なー…音羽?」

「うん?」


すぐにでも治りそうな傷口を見ながらあたしは小さく返事をした。
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