天使の瞳
「あー、着いた着いた」
キッと短い音で自転車が停まる。
タクの背中から顔を少し覗かせると、その前に見えたものに思わず目を見開いた。
「ちょ、ちょっと何でこんな所なん!?」
思わず張り上げてしまった声。
だって、目の前には墓場が広がる。
「墓参り」
「だ、誰の?」
「お前にくっついてる女」
なんだか背筋がゾッとした。
何で?何で?何でか分かんない。
「え、嫌や。何で行かなアカンの?行きたくない」
「俺、言う事あるし」
「あたしないもん」
「でも音羽もおらなアカンねん」
「意味分からん」
足を引っ込めるあたしの腕を浮かんだタクはスタスタと足を進めて行く。
必然的に進んで行く足に何か分かんない寒さを感じた。
密集地みたいに広がる墓場。
墓と墓の間をすり抜けて辿り着いた場所は、その人の墓であろう真ん前。
シックリとしないこの場所に、あたしの足は止まった。
「…ごめん!!」
パチっと手を合わせる音と共にタクはそう声を少し上げる。
思ってもみないそのタクの行動に唖然としてしまった。