天使の瞳

タクが止まった。

ううん…タクが止まったんじゃなくて、あたしが止まったからタクが止まった。


俯くあたしに、


「音羽?」


いつも以上に優しいタクの声が耳に入る。


「どーした?…音羽」

「……」


潤んでくる瞳が熱かった。

こんな事、誰も、誰も信用してくれるはずがないって分かってた。

でも、だけど苦しくて苦しくて凄く怖かった。


「おーとーは?」


俯くあたしをタクが覗き込む。

ポンポンと頭を撫ぜてくるその温もりに溶け込むように、あたしはタクの胸に顔を沈めた。


「…ごめん、タク。今日だけでいいから…今日だけでいいからタクの家に泊めてよ」


馬鹿みたいに泣きそうになって男の胸に…こんな大通りのど真ん中で抱きついてるあたしは馬鹿だ。

人目なんてどーでもいい。

どーみられたって、今はどーでも良かった。


「…音羽?」


寂しそうなタクの声がした後、あたしを引き離し、タクは顔を覗き込んだ。


「…ごめん、タク」


そう言って唇を噛みしめた。
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