天使の瞳
「音羽ちゃーん。お風呂どーするぅ?」
一階からタクのお母さんの声が聞こえる。
「入る、入る!!」
タクが続けて叫ぶと、そのままタクはクローゼットを開けた。
「音羽、これでええやろ」
渡されたのはダボっとしたTシャツに短パン。
それを受け取ったあたしは、何故か足が佇んだ。
別に風呂なんていいと思った。
一人になる事が怖かった。だからと言って、タクに一緒に入ろうなんてそんな事、言えなかった。
「うん、悪いけど音羽。一緒には入れへんぞオカンおるから」
「お母さんおらんかったら一緒に入ってたん?」
「音羽がいいよって言ったらな」
口角を上げて煙草を吸うタクを睨んで、あたしはバタンとドアを閉めた。
タクって何考えてるんやろ。
本間に…
「あ、音羽ちゃん、タオルここね」
階段を降りるとタクのお母さんが脱衣所から顔を覗かせる。
「あ、はい…何かすみません」
「いいの、いいの。お姉ちゃんが結婚してからは拓斗だけだから素っ気なくてね。だから久し振りに花が咲いた感じで嬉しかったわ」
「いえ、あたしもご馳走まで頂いて嬉しかったです」
「そう?ありがとね。また来てね」
「はい」
お母さんと言葉を交わした後、あたしは湯船に浸かった。