鬼龍‐金色の覇者‐
プロローグ
白い息と共に消えていく
『俺さ、この街に住もうと思ってるんだけど、』
深夜、近く。
騒がしいクラブのカウンター席に座っている俺は、隣に座っている黒髪の男に呟いた。
『お前等と関わりたくない。…どうすればいい?』
笑いを含んだその呟きに男は少し考えてから「諦めろ」と返した。
「俺等に関わらない様にするのは無理だ。特にお前は、な。」
『…ハハっ……無理、か…。』
「もういい加減逃げるのは止めたらどうだ?」
逃げる。…確かに自分は男の言う通り逃げていた。
けれど、どうやって進めばいいか解らなかった。
『お前等と関われば前に進めるのかよ。』
「さあァな。けど、過去とは向き合えるだろ…。」
『………。』
俺は何も言わずに、ポケットから千円札を三枚カウンターに置いて立ちあがった。
「逃げんなよ」
背向けたまま俺はその言葉を受け取り、店を出た。
店を出て、人通りの少ない裏道を歩いて行く。
〝逃げんなよ〟
男の、アイツの言葉が脳裏に蘇る。
俺は歩む脚を止めて、汚れるのも気にせずコンクリートの壁に背を押し付ける。
そして店の中でも被っていた上着のフードを更に深く被る様に、手で握り締める。
『……っ怖いんだよ、バーカ…』
俺の震えた声は、白い息と共に静かに消えていった。
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