地球の三角、宇宙の四角。
車イスの老人が右手をあげると、隣の男はマイク握って「ひとつ! XXXXXXXX」と、なにかの文章を叫んだ。

経営理念のようなものか。復唱する大勢の声に耳がキンとなり我に返った。

全てが壇上のほうへと向いてとにかく早口の大声で叫びだした。もの凄いスピードで経営理念を叫ぶ。そして復唱。

スーツの男が「礼」と短く叫ぶと「よろしくお願いします」と一斉に頭を下げると急に場内は暗転した。

スクリーンには【豊沼 秀虎理事長の軌跡】というタイトルとバイオリンの音が激しい協奏曲とともにスライド写真が流れる。

豊沼 秀虎(ひでとら)という男の学生時代の白黒写真とともに半生を低い声のナレーションがスピーカーから大音量で流れた。


とても聞き覚えのある声。この声は、わたしが小さい頃からずっと聞いていた。聞かされていたあの声だ。

私の人生にいちいち解説してくるナレーションの声。

【このあと、はゆみちゃんは一体どうなってしまうんだろうか?】

脳内で低い声のその男が、少し早口で私に語りかける。

やめろ!

消えろ!

【そんなところで見ていないで、参加すればいいのに】


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