地球の三角、宇宙の四角。
なにか神妙な顔になった老人は、こちらをまっすぐに見たまま私の言葉を待つように黙り込んでいる。こんな顔もするのか。
話してみるべきが迷いながらもクチからは言葉として次から次へと溢れ出す。

「私、頭の中で男性の声が聞こえるのですけど、これって変ですか?」

「いや、変じゃない」

と、老人は普通に答えた。口笛が吹けないことを父に相談していたときの事を思い出した。「まなみちゃんは吹けるのに、はゆみは吹けない。はゆみのオクチは変なのかな?」父は変じゃないと答えた。この目の前の老人も同じ顔をして変じゃないと答えた。何を根拠に。

「変じゃない。そうだな。イマジナリーフレンドって知ってるか?」

「いえ」

【この話も確実に長くなりますね】

「大丈夫、長くはならないよ」と、老人は話を続けた。
「イマジナリーコンパニオンとも言って……」

それよりも私にだけ聞こえる声に目の前の老人が反応した。答えた? そのことで頭の中が一杯になる。この人って一体?

相手の話に集中する。「小さい子の10人に1人ぐらいは経験する見えないお友達のことだ……」
【はゆみちゃんは、友達が少ないからねぇ】

「……悪いことではない。子供が世界になじむ前の想像力の産物だ。実体化……目にはみえないのだろう?」

「そうですね、見たことはないです」そうだ。いつもこのうるさい声の主は一方的で見たこともない。

【そんなことはないよ。はゆみちゃん。忘れているだけだ】

その言葉が引き金となって嫌な物が沢山入っている引き出しがカタカタと音を立てるような不安感が襲ってきて目を閉じる。目を閉じた暗闇からは声が響く【この人のことはよく知ってるじゃないか?】

しらない!

だけど返事はない。

「どうした?」という老人の声が男の声と重なる。振り払うように大きな声で叫んだ。

「あなたは、……あなたは、なんなんですか? なんでわたしにいろんなことを?!」

言ってることがおかしい。

なんとか自分を何とか客観視してみようとする。

だけど、うまくいかない。

自転車にのって坂道を凄いスピードで下って曲がりきれないようだ。

老人は何も答えなかった。
黙ったままだ。

顔を上げるとそこには誰もいなくて、あたりを見渡しても人の気配すらなかった。

【さっきまでそこにいた、あの老人は一体どこにいってしまったのか】

さっきまで老人がそこにいた場所に手を伸ばしてみた。手はゆっくりと思いどおりにうごいて、老人のいた場所を通過した。

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