地球の三角、宇宙の四角。
エレベーターのボタンを押すかなくんの指先を見ると、ずいぶんと遠い記憶が蘇ってくる。エレベーター。幸村さん。黒い影。

エレベーターが開く瞬間に、しがみついてしまった。どうした? なんて、言う言葉を聞いたときには部屋のドアが開いていた。またか。そう思った。

記憶が飛ぶというよりも、場面が飛ぶ。

順番や前後おかしいというのではなく、とにかく繋がりかたがおかしいと感じる。いよいよどうにかなってしまうのか、なってしまっているのか、ただ、おかしいということを自覚しているだけ、私はかろうじて私を何とか保てているのだと思う。

ドアを開け、中に入るとすぐにキスをされた。もう何も考えるな。そう言ってまたキスをしてくるけど、なぜ、こんなどこにあるかもわからない妙なラブホでこの人とキスをしているのだろうかとそのことばかりが気になる。

いつからおかしくなったのか。

病院で手術――

そして、窓枠に足をかけて飛び降りるイメージ。

鮮明に頭の中に広がるのは、地面に落ちてぐしゃぐしゃに砕ける自分。ゴツッという重たい音に、顔面が割れて中身がこぼれる。

自分の体の少し外側。腰の少し後ろがゾクゾクとする。その震えた部分をかなくんはがっちりと強く抱きしめてくれた。何か言おうとする開いたクチを塞ぐようにしてキスをしてくる。

「もう何も考えなくていいし、何も思い出さなくていいから」

ぎゅっと抱きしめられると、頭の中が真っ白になってまた飛んでしまうと思う。

頭の中には手術台に載って手術室に運ばれていく場面が広がる。こんなことはあったのだろうか?


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