地球の三角、宇宙の四角。



「昭蔵さん」

暗闇の中で声が聞こえる。

暗闇に目が慣れる事がなく人の気配だけを、ふたつ感じる。

「起きてる?」

男の声がする。

「はい」

と、力のない老人の声で返事。

「昭蔵さん。あのさ」

もぞもぞと布団の中で動く音と気配がする。

しばらくして男は続けた。

「死ぬ事とかって考えたことある?」

もぞもぞとした音が止まり沈黙。さらに男は続けた。

「おれは、昭蔵さんに会うまでは死ぬことなんて、どこか他人事のように思えてたんだよ。老いる事。死ぬ事よりも老いる事かな」


「一路くんは、まだ若いからな」

「や、そうじゃないよ。そうじゃなくて。いつまでたっても高校野球の選手は、お兄ちゃんみたいに思えるしTVや映画に出てくる人はいつまでたっても観る側でさ、そうなんだよ。

とっくに年齢なんか追い抜いてたりするんだけどさ、見ることに慣れてしまって自分が大人になるだとか、自分が何かをする側になるなんてどこか想像しにくかったんだよ」

「ふん」

と、返事をする老人の声。語りだすのを待つような沈黙のあと、男はまた話しだした。


「選挙にいってもさ、どうしても消去法で投票してしまう。この感じの悪いやつらがなるくらいなら、この人のほうがまともそうだと、よくも知りもしないのにさ。まるで、不味そうなオカズばかりの弁当から食べるものを決めるみたいにさ。って関係ないか。

昭蔵さんは死ぬことについてどうおもう?」

「くりかえしですよ」

「繰り返し?」

「朝目が覚めると今日も生きていたんだなと思うんだけど

夜になっていよいよ寝ようとした時にね、明日は目が覚めるのだろうか? なんてことを考えてしまう。

明日は来るのだろうか。

いちろ君が隣にいると、最初は安心して眠る事が出来たんだけど。

今は怖い」

「だからって、そうしてずっと僕の事を触っているのかい?」

「ああ、すまんな」

「ははは、あやまるのなら、さわるのを止めなよ」


「そうだな」

「ちょっ

しょうぞうさん


コラッ」


声だけが聞こえてくる。


私はこれを夢のなかで夢だと完全に気がついてしまう。

目が覚めると、いったい私はどこにいるのだろうか。

出来る事なら、かなくんが隣にて欲しいと思う。

たぶん、なんだかうらやましいとか。

たぶん、そんな理由で。












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