地球の三角、宇宙の四角。
ごほごほと咳き込む幸村さんに駆け寄ると、手で止められた。

止められた手は、床に転がる幸村さんのポーチを指差していた。ポーチを掴んで渡すと振動するiphoneを握って電話を取る。

「モニター見てたのか?」

電話の向こうは誰――
微かに男性の声が漏れるが内容までは、わからない。

いま何が起こっているのか、まったく意味がわからない。

「こんな時間からアレは、出るのか」

電話口に話す幸村さんの言葉だけを、座り込んで聞いた。

「聞いてないぞ」

「あと何体か、いるのか?」

「そうか……」

「……あれを使ってもいいか?」

「……試作品とか、そういうこと言ってる場合か!」

「はい、横にいます。代わりますか?」

「……嫌ですね」

「関係ないでしょ!」

「これで私が損をするのは2回目だからな!」

「使うからな」

耳からiphoneを離したときに男の人の荒げた声で、待てとか大きな声が聞こえたが幸村さんは電話を切った。

汗で、へばりついた前髪を整えた幸村さんは力なく笑って、「戻りましょうか」と、かすれた小さな声をかけてくれた。

幸村さんの指が二の腕に触れ、そのまま強く掴まれて強引に立ち上がらされた。

エレベーターのボタンを押し、ぼわぁと光が射しこんでくる。

中に黒い物体はいない。

今までのことは全て何かの間違いであってほしい。
はいはい今の無し。無かったこと。
そんな風には成らないのだろうか。なって欲しいが、火災報知器のベルの音と男の人たちの叫び声が、さっきあったことと今が連続していることを知らせ続けている。

足がふらつき、よろける私を支えるように抱きかかえられながらエレベーターの中へと2人して、入っていった。


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