地球の三角、宇宙の四角。
パープルグレイの指先が、最上階の30のボタンを長押しにする。爪先には、くすんだ銀色のラメが入っていた。

『ハイスピードモードに切り替わります』と英語のアナウンスが狭い室内に響く。

幸村さんは閉めるのボタンをカタカタとせわしなく押しながら「今日は遅くなりそう、一緒に居酒屋に行けなくて、ごめんね」と、言って閉まるドアをすり抜けていった。

「幸村さん!」

開くのボタンをカタカタしたり色んなボタンを押しても、何も反応がない。

ドアの隙間に腕を入れようとすると

幸村さんはメガネを外して、閉まるドアの隙間から、凄いスピードで私に投げかけてきた。慌てて両手と胸で受け止めるとドアは完全に閉まってしまった。

閉まる直前に見た幸村さんは、小さなピースを作り、幼い顔をして笑っていた。



エレベーターの照明がチカチカした。



「幸村さん!」

「幸村さん!」

何度も、両手でドアをたたきながら、はじめて憧れた人の名前を何度も叫んだ。




< 32 / 232 >

この作品をシェア

pagetop