地球の三角、宇宙の四角。
「手すりにつかまってなきゃ、ダメじゃないですか」

しゃがんだ男性と寝そべった状態で目が合う。

「おでこ、ぶつけたの?」

男の人は手練の営業マンのような嘘みたいな笑顔を見せている。

「下に幸村さんが、」

「知ってる」

男の人の顔が真顔になり、手をさしのべてきた。

大丈夫ですと、頭を振りながら立とうとすると、よろめいて男の人に抱きつく格好になった。
膝をついて受け止めてくれた白いシャツからは、薄いバラの匂いと目の覚めるようなメンソールのような匂いがした。

「すいません、下に幸村さんが居ます。助けて下さい」

「よっ!」という小さな掛け声と同時に膝の裏をがっちりと掴まれて、体がふわりと浮いた。

「大丈夫です。歩けますから、それよりも下に」

暴れると、ぐらりと揺れた。膝下に潜り込んだ手で締め付けられる。

顔が近すぎて恥ずかしくなり目をそらすと片方脱げたパンプスがエレベーターの前に転がっていた。

胸元を触るとメガネの感触はあり、安心した。

ソファーにそっと置かれると、体が、ズブズブと沈んでいった。

男の人が何かを話しかけているが、うまく聞き取れない。聞き覚えのある懐かしい声のような気もする。

幸村さんとのやりとりで電話から漏れていた声なのかな。それに、この人の顔を前にどこかで見たような。

支店長と幸村さんは言っていたっけ? いや、支店長はもっと年配の人だし。

後ろ姿を目で追う。

エレベーターに乗りこっちを振り向いた男の人は、片方の口角だけをあげて子供みたいな顔をして笑っていた。

腰のあたりで幸村さんと同じように二本指をルーズに曲げたピースをして、

エレベーターが閉じるとフロアーは、全消灯した。





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