地球の三角、宇宙の四角。
「ええ、難しい手術になると思います。覚悟をしておいて下さい」

母は両手で顔を覆った。そんな顔をしないで欲しい。

しかし、なんてことをいう医者だ。それほど難しいという事なんだろうか。

はゆみと名前を呼ばれ、母に抱きつかれる。胸のあたりがじわじわと濡れた。

「実際に気を失うほど神経を圧迫する痛みがある事と、この腫瘍の出来ている場所にも問題があります」

医者は続けて泣き崩れる母と放心状態の私、背を向ける課長に説明をした。

「不安をあおるようで申し訳ないが脳というモノは人体最大の迷宮で、最新医学、科学をもってしても、殆どの部分が、未だに解明されていません。

たとえば、脳の障害により半身不随になるケースとリハビリにより治るケースというものの違いや、メカニズム。これも最近になっても謎が多く、事例も様々で……」

誰1人として相づちを打たないまま、独り言のように坂上院長の話は続いた。

「極端な話ですが、脳の殆どを失った人が通常の生活を行えるにいたるケースもあれば、外傷はなくとも心理的ショックにより脳の殆どの機能が停止して植物人間化してしまうこともある。

今回のケースが過去のどのケースに類似しているのかというおよそのことしかわかりませんが……」

「今のまま放置していると何か障害が残るのですか?」

課長が話すその声が聞き取れなくなってくる。

視界が、色をなくしてく。
深い水の中に落ちていくように、そのまま他人事のように落ちるにまかせて、自分をあきらめた。

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