地球の三角、宇宙の四角。
指先と指先が触れあうと、とても温かく胸の奥の方まで温かくなった。

なぜだろう。あんなにも――

肩を触られただけで感じた違和感や嫌悪感が、今はまるでない。

「はゆみ、こわいか?」

課長の指に力が入った。院長先生の顔が浮かぶ。

手術の話の途中で寝てしまったんだっけ……。手術に失敗したらどうなるんだろう。

「…………かなくん」

「はゆみ」

課長に抱かれて強く締め付けられた。

「……かなくん。はゆみ。どうしてこうなっちゃったのかな?」

「はゆみ大丈夫! きっと大丈夫だから」

「かなくん」

かなくんの愛するはゆみになりきろうとした。

このままずっと抱きしめられていたい。何も考えることができないぐらいに強く。なのに好きでもない男に、はずみで抱かれた時の記憶が蘇る。【この感じ、とても嫌だ!】

いや、そんなのと一緒じゃない!

なりきったり演じたりするつもりなんか無い。
カラダが勝手に動く、もともとこうであったのだというぐらい自然に。

ほら、私はこうしてシャツの上から腕を掴み、背中の筋肉をさぐる。だけどなぜだろうか? やっぱり違うと頭の奥の方で声がする。

ここ最近、いやずいぶん昔から私は誰かにいつも監視されているような気がしていた。自分の人生にいちいちナレーションや解説を入れてくるとても低い声の男の人やオカマのような女の人の声。

小さい頃はそれが酷かった。そして命令をしてくる。

【本当にその男の人のことが好きなの?】 と、オカマの女が馬鹿にするように問う。

【はゆみちゃん。今! 恋愛ごっこに夢中であります】と、早口の男がまくし立てる。

うるさい。 うるさい。
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